アマリリスとバラ

ばんちょのお誕生日にちなみまして…
長いことUSBの中で眠っていたメルヘンを掘り起こしました。
良明さんの
《恋はアマリリス》
《笑門来福?》
《むすんでひらいて手を打とう》
《旅のYokan》
《静岡》
+かしぶちさんの
《ガールハント》
をイメージした自作メルヘンで、
タイトル通り、ノヴァーリスの「ヒヤシンスとバラ」からもヒントを得ています。

****

遠い、遠い、東の国。太陽の昇る温かい国の、海に近いある肥沃な土地に、ひとりの陽気な青年が住んでいました。その青年はたいへん気立てが良く、寛大で、そして土と風の独特な香りをまとった、素朴な青年でした。

冬の冷たい空風が肥沃な土地を離れると、春の太陽の接吻に青年は目を覚まします。満開のほっぺがぱっと桃色にそまります。うーんと両腕を伸ばすと、青年は太くて頑丈な首をすっくともちゃげて走り出します。そして彼は庭中の草花、小鳥、ハナムグリにアゲハチョウとうんとおしゃべりを楽しんでは、愉快そうにギターをかき鳴らして踊るのです。

少年が庭に躍り出ると、仏の教えを歌っていたうぐいすも、縁起のよさで評判のお宝を誉めそやすひよどりも、あじさいの木の下で通奏低音とカノンからなる単調な恋愛歌をわめくネコたちも、とたんに黙り困って、少年が紡ぎだす優しいバラードに耳を傾けます。少年が淡く切ないメロディを弾き終え、しばしの陶酔にうっとりとしてから、にっこり微笑んで、180度曲調の違うロックをかき鳴らすと、庭中の生命が楽しそうに跳ね上がります。木々は両腕を振って波打ち、ぼってりとした庭石は山羊のようにぴょんぴょん弾みます。ネコたちはテナーとソプラノの二重唱を張り上げ、小鳥たちはぴよぴよ、ちーちー、愛らしいボーイソプラノでさえずります。そうするともうまったく、青年は声を立てて笑わずにはいられないのでした。

さて、そんなある日。彼がいつものように庭でバラードを爪弾いていると、庭の細葉の陰から古風な音色が聞こえてきました。

「4月のあなたはアマリリス、5月にわたしは花になる♪」

遠く懐かしい響きに誘われてアマリリス―太陽のように陽気な青年はそう呼ばれていました―は、そっと細葉の後ろに回りこみました。するとどうでしょう、そこでひとりの美しい少女が、柔らかい土のうえにちょんと腰を下ろし、しっとりとラウテを弾きながら、温かい微笑を浮かべていたのです。ほんのりクリームかかった白の滑らかな肌。肩に垂れ下がる、絹のように柔らかくつやつやした黒髪。アマリリスのバラードにあわせるようにラウテを奏でていた乙女の唇は、情熱のバラの花びらのように赤く、ちいさくふっくりとしていました。

アマリリスはぞっこん、バラ―絵のように美しい少女はそう呼ばれていました―に惚れてしまいました。そしてバラもアマリリスのことが死ぬほど大好きだったのです。

このことを初めて知ったのは、あのあじさいと仲の良いネコたちでした。バラはあじさいのことを大変慕っていたので、その下でねずみを追い回しているネコにもバラの気持ちはすっかりお見通しというわけでした。いたずら坊主のネコたちはからかい半分にそのことをさっそくパンジーに伝えました。するとおしゃまなパンジーはすっかりバラに嫉妬して、そのことをヒルガオに伝えました。すると執念深いヒルガオは、バラが自分のところへ歩いてくると、その足に巻きつかずにはいられませんでした。だけど、

「バラの夏服はヒルガオ模様♪」

とアマリリスがギターを重たくならしてやんわりそれをとがめると、ヒルガオたちはするするっといなくなって、そしてあたりはすっかり真っ暗になって、アマリリスはバラを安心させようと、いくらでもセレナーデを響かせました。

♪月の光も漏れない暗い夜
すっかり道に迷ったバラちゃんは
うっかりかあさまと間違えて
アマリリスくんの首にしがみつきました
ところが恋するバラちゃんは
そうと知ってもおどけずに
ますますしっかりしがみつき
アマリリスくんにじっと甘いキッスをしました♪

とたんにバラはくすくす笑って、アマリリスの快活な口元にやんわり自分の唇を重ねます。そのときアマリリスは季節外れの夏風邪をひいていましたから、バラは自分の顔がぽっぽとほてってくるのをなんとも不思議には思いませんでした。

ところが夏が過ぎて9月になるとすぐ、猛々しい台風が庭を押し倒し、バラを自分の腕にひんづかまえて、どこかに連れ去ってしまいました。偏西風の暖かい風に守られて育ったバラは、台風の猛威になすすべもなかったのです。そこでアマリリスはバラを連れ戻そうと勇み足で出かけていきました。

長いこと、アマリリスは大急ぎで駆けつづけました。彼女の笑っている顔が、彼女の泣いている顔も、全部、全部、アマリリスは大好きだったから…! 熱い想いに体がこんがりこんと焼けてしまいそう、あわてて目についた白い糸のような滝にざぶんと飛び込めば、そこには大きな大きな山のおじいさん。この国が出来たころからそこにどっしりと腰を落ち着けているその大爺さんは、富爺と呼ばれていました。もうすっかり、富爺の頭は白くなっていました。
爺は焦るアマリリスを押しとどめ、おまえが追いかけている盗人はもう少し東の大都市に飛んで行ったと伝え、泣き顔を見せるな、常に笑いを絶やさなければいつしか幸福は自分から転がり込んでくるものだ、そう諭しました。

「奇跡を祈るが華の僕は、おおきなおおきなアマリリスの花!」

アマリリスはにっこり笑って、じゃらんとギターを鳴らし富爺さんにお礼を言うと、タッタカタッタと走っていきました。

さて、アマリリスはそうして大きな都に迷い込みました。そこは、吉の原と呼ばれている、陶酔と官能に満ち溢れた原っぱ。アマリリスが楽しそうにそこを覗き込みます、そこがとっても、とってもすてきそうで! すると女郎のような大きな、大きな、藤の花が、なまめかしくアマリリスに擦り寄ります。

【藤】これ、これ、そんなところで笑ってないで、楽しい思いを歌っておくんなすぇ、アマリリスさん【ア】おや、おや、すべすべした美人さん、そう絡みつくのはよしてくりょ、ぼくの鉢はやごいから【藤】あら、やごいってどんな意味ですの? 【ア】こわれそうってことサァ【藤】あら粋な殿方、ならたんと感傷的なお歌が唄えるでしょう

アマリリスがギターをとって歌い始めると、小さい菊がくるくると踊りだします。ゆったり手をむすんでゆっくり開いてゆけば、さわやかなかしわ手が空に満ちます。粋と恋情に満ちた通のメロディが風に乗って原っぱをいっぱい、いっぱい駆け抜けていきます。藤はなお体躯をくねらせ、アマリリスを魅了します。藤の魔術的な瞳が洪水のように思いを喋りかけます。それはアマリリスの純粋で月並みの幸福に満たされた夏の負債を徐々に、徐々に、吸い上げていきます。退廃的な恋の香りにアマリリスがとうとうくったり首を垂れると、藤が官能的な微笑と魅力に身をゆだねてアマリリスの脆い記憶(メモリー)をがっしりとわしづかみにします。そして藤の誘惑的な一息にそれが吹っ飛ばされそうになった刹那!

「若者よ、またきおったな」

夕暮れの大地にそびえる富爺は、重々しく朗々とした声でアマリリスに語りかけます。富爺を取り囲む雲の後ろには暮れかけたまだ青いままの空が顔をのぞかせていました。

「あすこに迷い込んだものは、二度と戻れぬという。じゃが、そなたの記憶の何かが、あの退廃的な空気を浄化したのじゃろう」
「行かなくてはなりません」痛む腰に手をやりアマリリスは荒れた体を前に投げ出します。「あそこの偽りの愛から、ぼくを救ってくれたのはただひとり―愛しのバラ! 心地好く甘い予感が、ぼくを駆り立てるのです。渡る船ひとつありません、だがぼくは行かなくてはならない、台風の去った海の果てまで!」

あの夏、アマリリスとバラの恋をからかったネコが、悲観に満ちた惜別の思いと、気持ちの悪戯に2人を嘲った自責の念にしょんぼりと頭を垂れて、そして小さく呟いてアマリリスの肩に飛び乗りました。

「祈るが夢…じゃ」

富爺の言葉がアマリリスの痺れた耳に響きます。笑いを絶やすでない、心底の笑みを忘れなければ幸せは自ら転がり込むもの…。

ゆっくりと体をゆるがせ胸の前で十字を切ると、アマリリスはずっとまえに忘れてしまった微笑を思い出します。すると心の平安が彼のかつて愉快に歌い騒いだ気持ちを湧き立たせます。

「笑う門に福来る!」

アマリリスはぱっと清純な笑いを浮かべ、ねこの頭をそっとなでると、足元に広がる田んぼの下まで歩いていきました。そこは広い広い沖合いになっていました。

―ボート、こいでみっかや―

やれやれとそこに腰を下ろし、アマリリスはまどろみます。ただひとり。ぽつり、ぽつり。舟をこぐ青年は夢を編み上げて(エディット)行きます。緩やかな波の流れが、アマリリスを不思議な力で見果てぬ遠くの国へと運んでいきます。たくさんの棕櫚が、透き通るようなきれいな天上を支えています。心地好い不安がアマリリスの胸のうちをいっぱいにします。至高の憧れへと向かう強い気持ちが、夢を徹して軽やかに鳴り響き、ぷかぷかと浮かぶ惑星の間を縫って、なんとも不思議な仕方でアマリリスを導いていきます。

心地好く響くグロッケンシュピール。ふわふわと舞うきれいなもや。三連符のリズムで駆け上がる流れ星。天の極みから素朴な青年を歓迎する威厳に満ちたのバスの歌声が降り注ぎます―アマリリスが気がつけばそこは月の上。遠くに見える赤の光は太陽か…いや、金星だ! おお、見ておくれ、あそこでぼくのヴィーナスがそっと手を投げ出している!

ヴィーナスにぽっかりと開けられた窓の枠組みを踏み越えて、清楚な衣装に身を包んだバラが情熱の赤に燃え上がります。すらりとした曲線美はこの世の至上を思わせ、ヴィーナスの緩やかな軌跡と重なります。アマリリスの月船が熱い胸の鼓動に遊園地のティーカップのように回転します。エーテルの海をひとつの惑星とひとつの衛星が子どものように戯れます。やっと出会えた、素敵なマイガール! あの意地悪な台風が奪い去ったのは彼女をせせこましくしていた偽りの仮衣装。重たい毛皮を脱ぎ捨て、乙女時代に別れをつげたバラがその思いをありったけ、気まぐれにかかとを鳴らしてアマリリスに歩み寄ります。偽りでない透明無垢の、軽やかな愛のステップ。舞い上がる青の土煙。重いバスの声に惹かれるように回転するヴィーナスと夢見る陽気な月の軌道がぴったりと重なります。そして!

アマリリスがさっと手を差し出すと、あの懐かしいバラが、大人びた、それなのに清楚で無邪気な笑いを、愛らしい唇に浮かべて飛び込んできました。溶け合う2人の心が温かく燃え始めます。

「わたしを連れ去った台風が若気の情愛に嫉妬して唄っているわ。でもあの方を責めないでやってちょうだい。大変ご立派な方なのですから! わたしを連れ去ったのも、あなたの愛を確かめるため。富士のお山と、藤のお花に入れ知恵をしたのもあの人。だけど、あなたはちゃんとわたしのところに来てくれた。わたしたち、もう一生、離れ離れになることはありませんわ!」

試練を乗り越えたふたつの魂がかたく、かたく結びつき、一気に溶け合います。甘い唇をじっと重ね合わせ、アマリリスもバラも互いに互いをひしと抱き合い、エーテルの海に躍り出ます。アマリリスの肩から滑り降りたネコが2人を祝福せんと踊り始めます。

あの春、あの夏、恋人たちは無邪気に踊り狂った。アマリリスも、バラも、くすくす笑いあって、ギターとラウテを片手に、大人気ない台風の愛の賛歌に合わせ、喜びと歓喜のダンスを始めるのでした。

****

ライダーズのトリビュート展に出展したお話ですが、
もとは《むすんでひらいて手を打とう》の世界観が
ヴェーヌスベルクっぽい!と思ったところから
発展したものです…。
ただしばんちょは江戸っ子なので
ヴェーヌスベルクではなく
吉原遊郭で遊ぶアマリリスくんです。

むしろ《タンホイザー》を
遊女戯作に読み換えた演出
観てみたい…なんて←

《旅のYokan》で
猫が肩に住み着くのではなく
飛び乗っているのは
ガカリョウライブ版です。

ばんちょ的には
いつもライブでは
どっちで唄おうかな?!
と悩んでおられるとか!!

ワタクシとしては
躍動感のある
ライブ版のほうが好きです♪


それでは
気の向くままに
アマリリスに…

2014/02/28(金) | 創作 | トラックバック(0) | コメント(0)

ソットヴォーチェのいななき

ソットヴォーチェのいななき風バザ5周年記念創作・アギ主結婚後)

世間はもうすぐクリスマス。町全体が真っ白の雪に覆われてからというもの週に一度のバザールも独特の賑わいを見せています。温かくて甘酸っぱい香りに包まれたホットワインのお店、色とりどりのオーナメントに飾られた絵本のようなお店、エキゾチックなお香にスパイシーなアロマを漂わせるお店に、木彫りの素朴なお人形が物静かに聖書のお話を語っているお店…。それはあまりに豪華なビュッフェか贅沢なオペラハウスにでも迷いこんだよう―一歩進むたび左右のお店に目移りし、どれにしようか、何をつまもうか、いずれが菖蒲杜若、ペーターかミヒャエルかそれともはたまたロベルトか、ビュッフェならば胃袋に相談するところ、ここでは金袋に相談し結局はふんぎりがつかなくて、もっとほかにいいものがあるはず、と欲の皮が張るうちに気が付けばデザートのコーナーに辿りついてしまっていました。

「しゅぺ、くら、ちうす!」

厚くて小さな木片がずらっと並べられたお店に吸い寄せられぴったりと足を止めると、最近簡単な文字が読めるようになった坊やは自信満々に品書きを読み上げます。坊やのあまりの威勢の良さに牧場主とその若旦那はすっかり微笑ましくなってしまいました。

今日は朝から久しぶりにお天道さまがその天然陽気光線をサンサンとふりまいて、つもりつもった雪の層が粉砂糖のミルフィーユよろしく輝きだしたのにすっかりテンション高ぶって、芸術一家は進軍ラッパを聞いたウマよろしく勇み勇んでクリスマスのバザールに足を運びました―芸術家のお父ちゃんも牧場主のお母ちゃんも、そしてそんな2人の遺伝子を立派に受け継いだ坊やも、灰色の冬には陽気な太陽がほほ笑んでくれないと気持ちが地下室のように真っ暗になってしまうのです。

「シュペクラチウス、クリスマスクッキーですよ」
「この型でどうやってクッキーをくりぬくの?」

目の前に並べられた見慣れないクッキーの型にお母ちゃんは興味津々。聖ニコラウスから天使さま、さらには馬や鳥のモチーフが彫られた木片をかわるがわる手にとっては眺めています。それもそのはず、普通クッキーの型といったらステンレスの板を曲げて作ったものが真っ先に思い浮かぶというもの。それが「木」で出来ているというのですからまずびっくりしてしまいます。そのうえその木片は木版画の版とは正反対に内側に浅く彫られているので、それでどうクッキーの生地をくりぬくのかそう簡単にイメージがわかないのも無理ありません。

実のところこの型は生地をくりぬくというよりむしろ、そのくぼみに生地を押し付けて模様を刻みつけるためのもの。ステンレスの型とは使い方があべこべなのです。しかしまあそれにしてもさすがは食いしん坊な芸術家の息子、手作業で彫られたクッキーの型なる小さな芸術品にすっかり魅了されてしまったようです。

「でもひとつひとつ手彫りなのね、すごい! おなじお馬さんでも一匹一匹、お顔がちがうよ!」
「ママのペーターデールもいるかな?!」
「さがしてみよっか!」

おいおい、ママのペーターデールは家の馬小屋にしかいないって、そう思いながらアギは妻と息子がクッキーの型に夢中になるのを天使の眼差しで優しく見守ります。

シュペクラチウスは香辛料のきいたぱりぱりとしたクッキー、寒い冬には体を温めてくれるシナモンやナツメグの香りが恋しくなるから、クリスマスにぴったりのクッキーというわけです。生地の作り方はいたって素朴で、やわらかくしたバターに砂糖、卵、小麦粉とスパイスを混ぜるだけ。

でもそこからが一苦労なのです。内側に彫られた芸術品、そこにぐいぐいと生地を押し付けはみ出た部分をナイフで削ぎ落としたら、型にはまった生地を破れないように慎重に型からはがさなくてはなりません。それをひとつひとつ丁寧におこなうのですから相当骨の折れる大仕事、ステンレスのクッキー型ならおよそ10分でできそうなくりぬき作業がこの木版をつかったら実に30分以上はかかると見なくちゃいけません。

おまけにやっとできた生地を焼き上げるのも、その薄さというのか繊細さゆえに注意が必要。ちょっとでも油断すればたちまちオーブンの中で丸焦げになってふつうの3倍の努力が一瞬にして発がん性物質の塊と化すのが関の山、しっとりと美しく響かせなくてはならない五重唱を崩壊させる「がん」が時としてもっとも美しくてもっとも細やかな精神の持ち主であることもなにも驚くに値することではありません。おいしい食感と甘く温かな刺激を胃に入れるには並々ならない時間に労力、傍からは大丈夫かと不安に思われても不思議でないほどの繊細さに加えて、ぷっつんしない程度にピーンと張りつめた強靭で柔軟な精神力が必要なのです―

シュペクラチウスを上手に焼き上げるのはまるで、7Bの鉛筆で画用紙に薄くて細い針を描くようなもの、7mmのボールペンで米粒に「馬」とでも書くような、シュテントールこと50人分の大音声の持ち主が春の小鳥のように甘いソットヴォーチェでささやいて、細く美しいコロラトゥーラでさえずるような…。

でもそれが芸術の醍醐味に違いない。どんなに優れた芸術性を有していても、それを知覚可能な形にするにはなにかしらの型にはめこまなくてはならず、なにかしらの法則に従わせなくてはならないのだから。そして大雑把に分けてその型はどうやら2種類あるらしい、ステンレスの型とシュペクラチウスの型。ステンレスの型を使えば確かに楽に作品を生み出すことが出来る、そのうえ短時間で量産も出来るし、効率がいい、おまけにステンレス型は同じモチーフの型ならどれを選ぼうがさして見た目に差が生まれることはない。

…でもそこに果たして個性や風味といったものはあるのだろうか、温室で育てられたリーフレタスのようにお利口さんでどれもほとんど同じ見た目のクッキー。そこには「同一性」以外の魅力はない、整然と並んで見えるさまはなるほどシラミの卵と同じで背筋をぞくっとさせる美の本質を体現してはいるのかもしれないけれど、それは一過性の味わいでしかない、なんと気楽なもんだろう! 

一方のシュペクラチウスは生地を押し付けるときの力の加減で、型から生地を剥がすときの力の加減で、模様の深さや輪郭がまちまちになってしまう、いやこの芸術品はすでにそれをはめこむ型の時点から小さな差が生まれている。なにせそれは人の手によって彫られたものだから馬ひとつとってみても一匹一匹表情、太さ、足の細さが違ってむしろ当然、型選びもまるで馬市で馬定めをするようなもの。個性的な方の中から選び抜かれたこの世にたった一匹の型で刻み付けられたクッキーの表情は一枚一枚まったく違う。

多大な苦労と時間を犠牲して焼きあがるからこそ、どれだけ型にはめられていようがシュペクラチウスには目にも胃にも独特の味わいがある。―型に従いながらもそれを踏まえて自由に振る舞い、五感に迫ってくるようなもの、それこそが形を伴った真の芸術性といえるものなのではないのだろうか。

「パパならつくれるよ、ペーターデール!」

ついついいつもの癖で小難しい妄想を独奏していたアギは、坊やのボーイソプラノにはたと我に返りました。どうやら思った通り、ママのペーターデールは見つからなかったようで、それなら我が家の誇り高き芸術家に作ってもらおうとのご算段。

「ペーターに、ママのふうしゃもつくって! クリスマスにみんなよんで、パーチーするんだ」
「あ、そうか、この町のバザールが復活してから今年で5年だものね、それじゃ、パパががんばれるよう、お天道さまにお願いしてくれたらやってみよう」
「お、てんとう、さまーっ!」
「待って、家に帰ってから、家に帰ってからでいいのよ!」

仲睦まじい若家族の明るくて底抜けの陽気にお店の主人もすっかり癒されてしまったよう、しわが寄るぐらいに頬を引きつらせて笑っています。

「ねぇ、お坊ちゃん、だけど困るよォ、あんまりお天道さまにがんばってもらっちゃ、足元の冷たい粉砂糖が全部とけちゃうだろう?」
「あっ、それは大問題、パパのやる気とホワイトクリスマス、どっちが大事かな?」

「パパのやるき! にどとこないもん」

おいこら、即答ですかい、アギは笑います。同時に幼いながらも「芸術」がこの世に唯一無二でありかつそうでなくてはならないものであることをそれとなく感じ取っているらしい息子の言葉に冷や水浴びせられた気持ちでいっぱいになります。なるほどホワイトクリスマスは来年にお預けでも、パパのやる気は毎年決まってやってくるものではないうえ、パパのやる気次第で出来上がる「芸術品」も表情にムラが出てしまう…。

「そんなにパパってお日さまが出てないときふさいでるかな?」
「ふさいでるわよ、地下室がきのこで栄えそうなぐらい」
「う…、ごめんなさい…それじゃ、こんど吹雪になったらバサールで売り上げ一位になれるぐらいにきのこ生やせるようがんばります」
「きのこじゃないやい、ペーターデールだいっ!」

坊やの力のこもった「ペーターデール」にそれはさぞかし立派なお馬さんなんだろうね、とお店の主人は身を乗り出します。

「パパががんばったら坊や、おじちゃんにもペーターデール、見せに来てちょうだいねェ」
「いいよーっ、でもおじちゃんも、おてんとうさまに、おねがいしてね!」

有難いことに天然でおめでたいお天道さまはアギがシュペクラチウスの型をいくつか彫っている間中、楽しげに笑い続けてくれました。その陽気の虫のおかげで町を包んでいた粉砂糖のミルフィーユはきれいさっぱりとけてしまいましたが、坊やの粉砂糖をとかすことも辞さない熱いリクエストに応え、どこのお店を探しても見つけることのできないアギにしか彫れない小さな芸術品たちがほくほくと出来上がりました。そしてクリスマスの夜には町の皆を呼んでさっそく芸術的なクッキーでささやかなお祝いです。

町のバザールが復活してからちょうど5年の区切り年にアギから町へのプレゼントが乗ったお皿のうえでは町のシンボルである風車や町長さんが輝き、さらにはにぎわうバザールの露店の中で客寄せのベルが鳴り響いています。素朴で繊細なシュペクラチウスのぬくもり、目にも胃にも魅力的なクリスマスの贈り物に、小さな田舎町の一軒家は幸せな笑顔と笑い声でいっぱい。そのなかに小麦色の立派な馬のクッキーを自慢する小さな芸術家の姿がありました。我らがご自慢のパパが彫ってくれたママの愛馬の型。そこに小さな手と小さな心で生地を押し込んで、ボクも一枚だけクッキーを作った! というのです、ところがなるほどそのぬくもりのある栗毛馬の表情からは父から子に受け継がれた強い芸術家気質がしっかりと漂っていました。

「あのね、これはボクからの、プレゼントなんだよ!」
「ほほぅ、どなたへのプレゼントですかな?」
「ペーターデール!」

動物小屋で立ったままうたた寝をしていた栗毛馬は坊やの声に目を覚ましました。坊やの手に握られた馬のクッキー、この世で唯一無二のペーターデールクッキー! たくさんの苦労と時間をかけてじっくり丁寧に出来上がった芸術品に無邪気な栗毛馬も何かを感じ取ってか棹立ちになって跳ね上がります。そして鼻を震わせ、甘く清純なテノール風ソットヴォーチェのいななきで感激を露わにすると、突然舞い込んできたクリスマスのおやつに大喜びでかぶりつくのでした。


+++++++++++++++++++++++++
風バザ5周年記念祭に間に合いませんでした…ただいまドイツは朝の8時ということで!一日の始まりです!風バザ5周年おめでとうございます♪

いつもどおりアギくんのお話で~5周年=彼女が町に越してきてから5年に設定=いくらなんでも結婚してるだろ、そして子供もいるだろう(いてください・涙)!→結婚後のお話になりました。

またクリスマスになったらサイトにもアップしなおそうと思います^^


それでは、
気の向くままに
こてこてに…。

2013/12/18(水) | 創作 | トラックバック(0) | コメント(0)

【バレンタイン創作 牧物風バザ】生地のなかに爆弾あり

生地のなかに爆弾あり


そう! 

ちょうどふんわり焼けたスポンジケーキに濃い日のコーヒーがじわっとしみわたっていくような甘く、切なく、虚しい感じ! 

言葉では表現しがたきあの感覚を、敢えて言葉で言い表すとするならそういうことになるだろう。甘いスポンジが、それも噴火もしなければカルデラ化することもなく奇蹟的に上手に焼きあがったふかふかのスポンジが、苦く暗い液体にさわっと侵されてゆくさま。

それはあまりに爽快すぎる甘苦の融合! 
五官に染み渡る痺れるような狂おしいあの恍惚感! 
それを得るために費やしたどんな辛苦も屈辱も一瞬にして報われる、そんな快感! 

「…そう! まさに、つまり、これだ」
ついこの前味わったオペラの、つかみきれぬもどかしい感触、あれをなんとか美味い言葉にしたためようとイメージをまさぐっていたアギは、ついに美の核心をとらえたとばかりにひとりごちました。
「ボクがあの晩体感した、いや体感してしまったのは、それぐらいにかくも恐ろしき素晴らしい美…」
「ぎゃーっ!」

ガシャバリーンビチャカチーンッ―!!

台所からのキラキラした爆発音にアギはとびあがり、あわてて爆心地に飛び込むとあまりの絶景に息をのみました。

床一面に広がった褐色の海。
透明の小さな岩礁がいたるところで鋭く光っています。

つい、いつもの癖でその美的光景をスケッチすべく上着のポケットから小さなスケッチブックを取出しそうとし、はたと思いとどまって目を凝らすと…。

いやはや、目を凝らすまでもなく、それは単なるコーヒーの海で、光り輝く岩礁は粉々に砕け散ったガラスの破片でしかありませんでした。

我に返ったアギがびっくりして顔をあげると、そこにはもはや自分の信望をすべて失って茫然と立ち尽くす牧場主リンダの姿。彼女の手にはコーヒーサーバーの取っ手がしっかりと握られているのに、当のサーバー本体はどこを探しても見当たらないのでした。


事の次第は結構単純。

今日は冬の感謝祭だからよかったら牧場でお茶してかない? そんな風にリンダから誘われて。
お菓子作りにかけたら左はともかく右に出るものなし、アギのイメージからするとドゥシャンかドローネーに匹敵するそのパティシエから「お茶いかが?」なんて言われたら、甘党はおろか、チョコレー党もクリム党も、あっさり屈服セザンヌおえません。

…まあとにかくそんなわけで、大喜びで彼女のご相伴に与って感謝祭のお菓子が出来上がるのを待っていたところに、台所でなにかよからぬことが起こったというわけです。

「サーバーが落ちたの…」
「アーユーではなくて?」
「サバよ!」
「コメ ヴァ?」
アギのバカっ!」

ジョークにジョークで応える余裕がいまひとつなくなっているリンダをもうひと押し笑わせ元気づけようとアギは頭をひねります。

「じゃ、とりあえず床ふきましょう。えっと、ほら! ストロー!! 持ってきてください!」
「もうアギっ、お願いだから!!」
「だって…せっかく淹れてくれたコーヒーですしもったいないじゃないですか」
「アギ…ふん、もうぅ」

アギがあまりに真面目くさってストローでコーヒーを吸い上げる身振りをしたので、さすがのリンダもこみ上げた笑いに先を続けることができませんでした。

「天衣無縫のアルレッキーノにはどうしたってかなわないわ!」
「プレーゴ! プレーゴ! プレーゴ!」

冗談もストローもイタリアンジョークもさておき、床をぞうきんで拭きながらリンダは唇をかみます。

「今年2回目なの…コーヒーサーバー割ったの。1年に2回も割るなんて…それもこんな大切な日に」
「それは…大変すばらしいことです」
「アギっ!」
「さて困った、どう言ったらこの画家兼即興コメディアンの言葉を信じてもらえるかな。確かにモノを粗末に扱ってはいけませんが、壊れたものはそれ以上壊れない。…そのうえ、コーヒーサーバーがリンダさんの不幸や災いを肩代わりしてくれたって考えてみたらどうでしょう?」

唐突なアギの言葉にリンダはびっくりします。彼女の反応を見てアギはにっこり笑い、肩を竦めました。

「ボクもね、前に不思議な話を聞いたことがありまして。ある町のお医者さまがね、たいそう毒きのこに興味を持っておいでで。彼によれば、毒きのこを身近に置いておけばその持ち主はそれ以上毒されることはないし、そればかりか毒きのこが人体の毒になるものすべてを吸い上げてくれるとのこと。もちろん…素朴な考えではありますが、病は気からともいうもので。その町の人はその風変わりなお医者さまの風変わりな民間療法で、病気にかかることはほとんどないそうです」

「コーヒーサーバーも同じで…私の…」
「うん。それもこの大切な日に」

すっかり床を拭き終え、砕けたサーバーのガラス片もかたづけ終わるとリンダはおずおずとアギに向き直りました。

「さっきのコーヒー…お菓子につかおうと思っていたの。でも…サーバーがなくちゃコーヒー、淹れなおすこともできない…」
「ボクは一向に構いませんよ、もしリンダさんさえよければ」
「え…?」
「ボクのをお貸しします。…いや。もし、感謝祭のしきたりにこだわらないって言ってくれたら、一緒にお菓子、作りませんか?」
一息、落ち着いた語調で言い終えるとアギはもう先を続けはしませんでした。

でも。

自由で寛大な芸術家の言葉はもうそれで充分、むしろ十分すぎるほどでした。

これまできっと、彼はこの街の古臭いしきたりや伝統の枠にはめられて、狭く苦しい思いをしてきたのでしょう。

うんうん、と大きくうなずいてリンダはアギの華奢な胸に飛び込みました。

やっとわかった、コーヒーサーバーが1年で2回も割れたのは、サーバーが私だけじゃなくてアギの不幸や災いも肩代わりしてくれたから…!

「この街の流儀より、アギの流儀のほうがずっと私、居心地いいみたい!」


さてさて…。ドゥシャンかドローネーに匹敵するパティシエと、天衣無縫の画家兼即興コメディアンによる見事なるコラボレーションによって生まれたのは、「私を昇天させて」なんて悪名を持つ、感謝祭の日にはあまりにもってこいすぎるあのスウィーツ。
層が厚くとろけるような夢心地の美しさ。
ふかふかのスポンジを濃い日のコーヒーにたっぷり浸し、マスカルポーネにパータボンブ、8分立ての生クリームとメレンゲを混ぜて注いで、上から力強い純粋カカオをこんもりふりかけた、あの甘くほろ苦いスウィーツ。

…そうすなわちノンアルコールの本格ティラミス! 

天にも昇る心地の食感にリンダの心が緩みます。

「私これから、コーヒーサーバー割るときにはアギの不幸を叩き割ることをまず第一に考えることにするわ!」
「はてさて、それはとんだ本末転倒!」

アギは「あい、言い過ぎた」とばかり、眉一つ動かさず心の中で十字を切って濃い日のコーヒーでひたひたになったスポンジで口を濁しました。

「…それぐらいに、かくも恐ろしき素晴らしい美声だった、というわけだ!」


こうして彼はやっと、コーヒーサーバー爆弾で中断された自身の独り言を言い終わることができたのでした。

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お久しぶりです、おぺらお~です。
気が付けばバレンタインの日当日に…
今年は旅行やレポートの都合でひとつだけですが
牧場物語風のバザールからアギとリンダの感謝祭のお話。
なんだか交わるんだか平行線なんだかわからぬ感じですが
ジョークがお好きなお二人はこれで通じ合っているということにしていただいて…。
(イメージ的にはホントにイタリアのコメディアディラルテのアルレッキーノとコロンビーナなイメージのお二人です)

物騒なタイトルは「パータボンブ(Pate a Bomb)」の直訳です…。

写真はあまりに写り悪いですが実際手作りしたティラミスです。。
大雑把な性格ゆえ、無神経にこんもりとカカオを盛り付けてしばらく置いておいたら
むらがでて模様まで浮かび上がってきた始末。
この模様がどことなくふくろうの顔にみえるのは
ふくろうびいきの私だけでしょうか;;

また近いうちにサイトにもあげますです
…この「近いうち」が一か月後にならんよう自分で自分に祈りますです;

2013/02/14(木) | 創作 | トラックバック(0) | コメント(0)

【七夕創作:オリジナル】みんなの願い

遠い遠いどこかの国に、ロッセルドルフという名前のとてもとても変わった村がありました。その村はどの家にも必ず一つは馬小屋があって、そこに住んでいる人たちはみんな、犬ぐらいの大きさの馬と暮らしていました。

ロッセルドルフの村はずれ。質素な一軒家に小さな畑で家庭菜園を営んでいる徹さんは、おおらかで懐が深く、甘い和菓子が大好きな、馬想いのユーモアあふれる太ったおじいちゃん。丸顔に、見事な白髪と銀色の口髭に黒縁のロイドメガネがお似合いの、灰色の瞳のちょっぴり小粋なおじいちゃんです。

さあ今日は七夕さまの日! 昔から、願い事を書いた短冊を笹につるして笹飾りを作り、七夕さまの夜に川に流すとお願い事がかなう…と言われています。

徹さんと彼の大切な愛馬、トル、ヘル、ヴァルはたったいま笹飾りを作るための笹をとって戻ってくるところ。徹さんの畑の裏手には徹さんの昔の愛馬、もの静かで力持ちのイカルスのお墓があって、お墓のまわりとぐるっと小さな笹やぶが取り囲んでいるのでした。

「昔からこの時期は日照りが続いてね、長いこと干ばつに苦しめられてきた、そこで雨を恵んでもらおうと水辺の水車小屋に棚機女(たなばたつめ)が籠り、祖霊のために衣服を織って笹に飾って祈願したのが七夕のお願いの始まりなんだよ、うん、つまり、雨乞いとお盆が一緒になったのが七夕さまのお祭りってわけさね」

七夕さまの日には決まって徹さんは独り言のように呟くのでした。だから徹さんは亡き愛馬のお墓を守っている笹にこだわって、七夕さまの笹飾りを作るんだね、トルたちはよくよく知っていました。そして徹さんは笹をとりに行くときにはかならず、にんじんとりんご、砂糖菓子にお花をイカルスのお墓にお供えするのでした。

「今年はおまえたち、どんなお願い事を書くんだい?」
お墓参りも終わって立派な笹を一本抱え、母屋に帰る道すがら徹さんは馬たちに尋ねました。

「雨がたっぷりたっぷり降って畑のとうもろこしがおいしくなりますようにって書くよ、ぼくは!」
陽気なヘルはへへんと胸を張ります。
「とうもろこしだけじゃない、たまねぎも、とまとも、かぼちゃも、畑の野菜みんな、みんっなおいしくなりますようにって書くよ!」

「若鮎たくさん食べれますようにって書こう、僕は」
のんびり屋のヴァルはまったりした口調で言います。
「季節を感じる美味しい和菓子。鮎の、自然の恵みの形をしたお菓子から僕らみんな、もちろん徹さんもたくさんの幸せをさずかれますようにって書こう!」

「たのしい七夕さまの夜をすごせますようにって書くよ、ボクは」
素朴なトルは目を輝かせて徹さんを見上げます。
「徹さんが楽しいお話を聞かせてくれて、ボクらみんなで楽器を弾くんだ。たっぷりたっぷり笑って楽しんで、七夕の夜をすごすんだよって書くんだ!」

「おやおや」
徹さんは好々爺然として微笑みました。
「お前たち、そんなにたくさん書いちゃ、短冊がまっくろくろになっちゃうよ!」
「徹さまはどんなお願いを書くの?」
「ボクかい? うーん、どうしようかねェ…」
「ええっ、まだ決まってないの?!」
「早く決めないと夜になっちゃうよ!」
馬たちになじられながら、徹さんはにこにこ笑って「いそいで考えるヨ!」と頭をかきました。

お家に帰ったら笹飾りの準備です。折り紙で作ったちょうちんやお星さま、徹さんが折ってくれたカササギたち―七夕さまの夜に雨が降ったらたくさんのカササギが飛んできて織姫のために天の川の橋渡しをしてくれるんだって! ―それから飼い葉の切れ端やにんじんの葉っぱ。トルたちはそれぞれ思い思いのもので笹を飾ります。そして最後にお願い事をかいた短冊を結わえて笹飾りは完成! 今年も素敵な七夕飾りができました。

夜になって空一面に綺羅星が輝きます。紺碧の空にひときわ大きく輝くこと座の織姫とわし座の彦星。織姫と彦星、2人の間はシルクのようなミルクの河に隔てられています。川に流した笹飾りはどこかで天空に舞い上がって、あのミルクの河―天の川まで届くのでしょう。そうしたら織姫と彦星がそれを拾い上げて、みんなの願いをかなえてくれるのです! 

縁側でフルートを吹いていたトルたちは、徹さんの足音に演奏を止めて楽器を下ろしました。

「素適な音楽と思ったらお前たちだったんだね!」
「徹さん、ちゃんと短冊書いたー?!」
「ああ、書いたともさ」
「なんて書いたの?」
「ひみつ!」
「ええ、ひどい!」
「明日にはきっとわかるよ!」
「教えてよー、ぼくらは教えてあげたのに、ずるいずるいー!」
「だめだめ、徹さん特権!」
「なにそれ、知らないよ!」
「たったいま出来た特権!」

仲睦まじい人馬の会話が弾みます。たわいもない言葉の応酬に徹さんもトル、ヘル、ヴァルもケラケラ笑います。そしていつになく大人げない徹さんはちょっとすねたふりをして、それで馬たちはすっかりあわてて、怒らないでよ、明日まで待つよ、と徹さんのご機嫌をとって。それで徹さんはにっこりうなずきました。

「そう明日のお楽しみだよ。そのかわりに素敵なお話をしてあげるからね! 織姫と彦星の悲しいお話は知っているね? 年に一度だけ会うことを許された2人。でもそれがどうしてかお前たち、知っているかな?」
トルたちは顔を見合せます。
「なになに?」
「うん、それならきかせてあげようね」

*                              *

昔々。天の川のほとりに小さな公国があったとさ。そこはいろいろな国と戦をしてすっかりくたびれておったわけだ。なんせ、織姫の弟、国の跡取りの王子が行方不明になってしまってね。

それで、ある日家臣のひとりが、織姫を弟殺しの罪で訴えた、彼女は弟を天の川に沈めて殺した、って言ってね。訴えられた棚機女のお姫様は、私の無実を証明するために、天の川の向こうから一人の騎士さまがやってくるはずとすっかり夢見心地。

するとおやおやどうしたもんだろう! 天の川を白鳥の引く船にのって立派な立派な、立派すぎる騎士がやってきおったよ! 騎士は自分の出生と名前をたずねないことを約束に織姫と結婚の誓いを結んで、織姫の無実を証明するために家臣と剣を交える。天は騎士に味方したね、騎士は家臣との戦いに勝利して、織姫の無実を証明したってワケさ。

…ところが、だよ。家臣は引きさがらなかったんだ。それに彼の妻もまた突然現れた騎士を胡散臭い奴だって思っていてね。そこで2人はあの手この手で織姫の心に揺さぶりをかけた。どこの馬の骨とも分からぬ男と結婚してよいのか? 奴の生まれは口に出せぬほど卑下しいものかもしれないぞ…。織姫もまんざらでない、どうにかして騎士の出身と名前を知れたら! そんなこんなで夢見る乙女の心はききわけなんかなくなって、織姫は本業の機織りなんてそっちのけ、結婚式まで来る日も来る日も騎士のことばかり考えるようになってもうた。そんで結婚式の夜にとうとう、織姫は騎士にたずねてしまったんだ、「あなたの秘密をなにもかもきかせて、愛する者の名前を呼ぶことのできない私の辛さをわかって…」

そのとたん、突然あたりが真っ暗になって、バリバリと天に稲妻が走り、遠く、天の川のかなたに浮かび上がるのは織姫の父である天帝の怒りの形相。それを見たとたんに騎士もひどく落胆し、家来たちを呼び集めると、自分の名前と出生を打ち明けた。

自分は天帝からつかわされた聖なる騎士、彦星アルタイル。天帝は娘の織姫ベガが独り身であること、そして弟殺しの無実の罪を着せられたことを憐れみ、自分をつかわしたのだ。…それなのに。結婚が決まってからというもの、ベガはアルタイルのことばかりを考えて機織りを止めてしまった、挙句のはてにベガは神聖な誓い、「アルタイルに出生と名前をきいてはいけない」を破ってしまった。もはや、自分はベガのところにとどまることができない。

…そうこうするうちにあの白鳥が―そうはくちょう座の天帝デネブがつかわした白鳥がそりをひいてやってきた。アルタイルは形見にと指環をベガに渡し、白鳥に何やら呪文めいたことをつぶやく。すると…天の川の中からひとりの若き青年があらわれた、ベガの行方不明の弟、アルビレオ! アルビレオは魔法で白鳥の姿にかえられていたんだ。アルビレオに公国の未来を託すと、アルタイルは悲しむベガを残し、天の川を渡って対岸へと帰って行く。でも…悲しみのあまり泣き崩れるベガに天帝は慈悲を垂れ、年に一度だけアルタイルに会うことを認めたのだよ。…

*                              *

「ふぅん…そんな、お話があったんだ」
「なんかその、天帝って奴は優しいのかなんなのかよくわかんないな」
「だけど神聖な誓いを破ってしまう織姫もいけないよ」

わいわい好き勝手に盛りあがる馬たちを見ながら徹さんは徹さんでにやにや笑っています。

「でもアルタイルがそんな立派な騎士(リッテル)だったなんて知らなかった、きっとイケメンだったんだ」
「イケメンかつツンデレ!」
「織姫さまが本職の機織りもそっちのけにするだけのことあるね!」
「それだけアルタイルのことを想っていたからベガは誓いを破っちゃったんだよ!」
「それできっと天帝も年に一度だけ会えるようにしてあげたんだね」
「いまごろベガとアルタイルは年の一度の逢瀬を楽しんでいるんだ」

「降りてこい、ベガとアルタイルの愛の夜!」
「彼らの待ち望む忘却を彼らに贈れ!」
「―そして彼らを欺瞞と別離の世界から永遠に解き放て!」

これにはさすがの徹さんも心の底から感嘆せずにはいられませんでした。

「わかった、わかった! さあ笹を流しに行こうね!」

畑近くの小川に笹を流してトルは徹さんを見上げました。

「ねぇ、徹さま! ボクのお願い、もう叶っちゃった。徹さま、素敵なお話を聞かせてくれたし、ボクらたくさん笑って、とっても楽しい七夕さまの夜、すごしたよ!」

次の日。

畑で徹さんとトルたちがせっせと土いじりをしていると、徹さんの大の友達でお肉屋さんの哲郎さんが、大きなかごを抱えてやってきました。その初老の、背の高い肉屋はかごをおろすと、さあとばかりに微笑みました。

「若鮎です! さっき、お得意様がもってきましてね。私とフライシャーではとても食べ切れませんもので」
びっくりして馬たちがかごをのぞくと! なんと中にはたくさんたくさん、和菓子の若鮎が詰まっていました。

「わあ、僕のお願いもかなったよ!」
「これでみんなハッピーだ!」
「ホントにいいの? 哲郎さま! ありがとう!!」
「ありがとう、哲郎さん!」
「ありがとう!」

素直で無邪気な馬たちに遠慮の言葉はありません。徹さんが慌ててお礼を言うのも待たずに、トルたちは和菓子にとびつきました。

「なんてことありませんよ、それにこのまえじゃがいもをたくさん分けてもらいましたしね!」
哲郎さんはふんわりと笑って、そして穏やかな眼差しで喜ぶトルたちを見守ります。

「うわぁ、すごく美味しいよ! 哲郎さん!」
「なかが抹茶味だよ!」
「哲郎さまもいっしょに食べようよ、ねぇ、それに徹さまも食べていいでしょ?」
「どうぞ、どうぞ、どうか遠慮などなさらずに!」
「そうだよ、せっかくだもん、みんなで食べようよ!」

そうかねェ、じゃあお言葉に甘えるよ、徹さんは目を細め幸せそう。可愛い馬たちからせがまれれば、徹さんと哲郎さんとてひとたまりも水たまりもありません。そうして3頭と2人はお日さまが優しく見守るとうもろこしの畑のなかでむしゃむしゃ、ぱくぱく、初夏の風物詩を囲んですっかりピクニック気分です。

肉屋の哲郎さんの家には村中の馬たちが人間への最後の「奉仕」のため集まってきます―事故で大けがを負って再起不能となったイカルスもまた哲郎さんによって天国へと送られました。毎日のように馬たちを殺めながら哲郎さんはそこはかとない良心の呵責と闘い続けているのです。

…でもだからこそ哲郎さんは馬を苦しめずに安らかに空に送るすべをよく知っていました、そうした彼の人徳と馬徳がきっとお得意様にも伝わったのでしょう。善良な肉屋へのせめてもの慰めに哲郎さんは時折、こうして思いがけない贈り物をもらうのです。でも死にゆく馬たちの送り人である哲郎さんにとっての一番の心の慰めは、死とは無縁な元気な馬たちの笑顔にほかなりません。

…そう、ちょうど、若鮎をほおばって喜びいっぱいのトルたちの笑顔! ヴァルが短冊に書いたとおり、若鮎はトルもヘルもヴァルも、そして徹さんに哲郎さんまで甘く幸せな気持ちでいっぱいにしてくれました。

かごから若鮎がごっそりとなくなったとたん、急にあたりが暗くなりました。あっと顔を空に向けると、むくむくと灰色の雲が空に広がって、次の瞬間、ドゥシャーンと大雨ダーダー! ところが馬たちは目を輝かせてはねあがります。

「ぼくのお願いも叶ったよ!」
「これで野菜たちもハッピーだね!」
「雨さんふーれふーれ!たっぷりふーれふーれ!」

ワイワイ喜びながら馬たちは跳ねまわります。馬たちはにわか雨をわずらわしいなんて思ったことは一度もありません。

「ね、哲郎さま、雨はきっと天国のイカルスの慈悲の涙だよね?!」
「天からのシャワーをあびると、畑の野菜が元気になるんだ、徹さんの野菜が宇宙一おいしいのは天国のイカルスが水やりをしてくれているからなんだよ!」
「おやおや…」

これは大変、急いで帰らなくては…と踵を返しかけた哲郎さんは、トルたちのその言葉に呼び戻されてしまいました。大怪我をして息も絶え絶えのイカルスが自分の肉屋に送られてきたとき、その優しい肉屋はひどく胸が締め付けられる思いがしたもの、それなのに。

トルたちは生前のイカルスを知りません、そんなトルたちから「天国のイカルス」なんて言葉が聞けると、安楽死と言えイカルスを殺めてしまった罪の意識がうっすらと薄れていくように思います。イカルスは徹さんだけでなくトルたちの心の中にも生き続けている…そう思うと心の足かせがすっとなくなった気がします。すると不思議なことに、突然の驟雨も決していやなものには感じられなくなってしまいました。

「哲郎さん、帰るの?」
「傘持ってる?」
「…ちょっと待ってて!」

とててっと畑の奥に消えたトルがおおきなフキの葉っぱをくわえて走ってきました。

「ほら、哲郎さま! 傘だよ!」
「これはありがとう!」

夕方には雨はすっかりやんで、空には七色の橋がかかりました。お日さまがそれを渡って西の空に沈んでいきます。コハク色の薄く淡いオレンジの光に包まれた畑。

よくよくみるとうずまきを背負った小さな妖精たちが細長い目をふりふり、葉っぱや石の上をのんびりお散歩中。妖精の通った後はキラキラと輝きます。この妖精たちは雨のしずくと一緒にやってきて、そして雨のしずくと一緒に消えてしまうのです。織姫と彦星の一夜のはかない逢瀬のように…。

「ねぇ、徹さま! もういいでしょ、教えてよ!」
「徹さん、短冊になんて書いたの?」
「そうだね、ボクのお願いも叶ったことだし、もう教えてあげてもいいね!」

徹さんの短冊にはなんて書いてあったのでしょう? トルのお願いも、ヴァルのお願いも、そしてヘルのお願いも叶って、そして徹さんもお願いも叶ったということは…そう、愛馬想いでユーモアいっぱいの徹さんの短冊にはこんなことが書かれていたのです:


ボクの愛馬たちの願いがぜんぶ叶いますように!


***********************************************

徹厩舎から七夕のお話です。
とっさの思いつきで書いてみたもので、ここからまたたぶん加筆・修正入ると思います。
(7月7日当日加筆・修正終了です)

今年はとことんフモールというのか冗談をこめてみました。
「ドゥシャーンと大雨ダーダー!」
印象派の雨に続いて、今年はダダイズムの雨です(苦笑)

久しぶりに哲郎さんも登場!お肉屋さんの苦悩は果てません…。

徹さんの挿入話は、ヴァーグナーのオペラ《ローエングリン》を七夕に読み替えたらこうなるんじゃないか、という試み(ローエングリンを彦星に、エルザを織姫に…という読み替え)
ローエングリン》というとどちらかと言えば《夕鶴》とイメージが似ていますが、七夕伝説でも「年に一度だけ会える」というどんでん返しをのぞけば、なんとか行けそうな気がします…。


ちなみに私のローエングリン像はいっこうにペーター・ザイフェルトなので、好みにもよりますがまあ、
イケメンでないことは確かでしょう…(←イケメンの定義をいまいちよく知らないけれども)
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2012/07/06(金) | 創作 | トラックバック(0) | コメント(0)

あつあつのご飯に白焼きにしてたれをからめたにょろにょろをのせて山椒をまぶしたあの料理ですよ

週刊ブログテーマ
今回のテーマ:夏の必須アイテム 【オリジナル創作】

おや、こんにちは。この馬村老人多田爺こと徹さんにどんなご用件かな? なに、今日はボクに何かを語って欲しいとねェ。たいして話すこともないんだがね、それじゃあ半時ばかり、ボクの夏の必須アイテムの話をしてあげよう。

夏といえばきっと、暑さ対策が第一に挙げられるだろうねェ、というわけで暑さ対策の必須アイテムを6個ぐらい紹介しようかね。

いいかね、ボクがこれからお話しようと思うアイテムは、例えばUSBポートの持ち運び扇風機とか、プロペラがついた書きながら涼むことのできるボールペンとか、保冷財パックを中に詰めたスカーフとかそう言った代物じゃぁないんだ、なにせボクの家はあんまりにも質素で貧乏だし、そのうえ僕は素朴な愚か者だから、そういったものを手に入れる機会にも、そのためのお金にも、恵まれていないのだよ。

さてと、それじゃあ、ちょっぴりボクの庭を案内するとしよう。

ボクの庭は小さな畑になっていてね、あすこでカリカリに枯れているのはとうもろこしさ。今年は早いころに収穫があって、とっくに枯れてしまったんだよ、残念だったねェ、ははは! 

そしてこれが、夏には欠かせないボクの必須アイテムその1―のミントたちなんだな。

ここにはオレンジミントとパイナップルミント、それにアップルミントが植えてあるんだけれど、どうやらミントは根っこ同士で交配するみたいでね、パイン・アップル・レンジ・ミントが下からぐんぐん育ってきているのだよ。

で、この、すっかり毛虫にかじられて丸坊主になっているのがスペアミント。

その横で茂っているのがペパーミント。ためしにちょっと葉っぱをもんで匂いを確かめてごらん、そら、歯磨き粉のような、スーッと鼻を突き抜ける清涼感ある甘い香りがしたろう?


ミントにはメントールと呼ばれる昇華性の結晶が含まれていてね、一般に薄荷油と呼ばれるものがそれなんだね、この匂いを嗅ぐだけで体感温度が4℃も下がると言う実験結果もでているそうだよ。

さらにミントの葉っぱを水で煮出すだけで、充分クールダウン効果の期待できるミント水を作ることができるんだな。

ミントはもともとは雑草だから元気いっぱいぐんぐん伸びて育って、畑一面ミントになったりもするもんだよ。

で、もったいないぐらいたくさんミントがとれたら、なべにほかして、ひたひたのお水で約10分―水に色がつく程度に煮出せばミント水の完成ってもんさ、飲むときには炭酸水やお水で割るといいね。スプレーにして部屋に散布すればそれだけで爽快感を得られるし、無水エタノールを加えれば虫除けスプレーにもなるんだよ。

煮出したあとの茶葉は、砂糖で煮詰めればジャムにもなるし、庭にばら撒いておけば腐って肥料にもなる、今の時期はこおろぎやスズムシといった秋の虫の幼虫たちが、出し殻を食べに集まってきたりもするもんだよ、夏のうちに秋の風情を青田買いってワケさ、いいアイディアだろ?!

すがすがしい気分になるのもいいけど、夏バテにはビタミンやカリウムをとるといいね。

それには、これはボクのかわいい愛馬たちもお気に入りの逸品なんだけど、ハイビスカスやローズヒップのティがおすすめ! 

ボクの夏の必須アイテムその2はこのハイビスカスとローズヒップのブレンドティなんだな。程よい酸味が疲れた体をリラックスさせて、根付けてくれるんですよ。

夏の暑い日に外出するときは、マイペット―いまは魔法瓶といわないんだねェ―に冷たいハイビスカスティを入れて持参するね、まあ対外は、一時間もしないうちにからっぽになってしまうけれどネ!

ちまたではゴーヤのカーテンなるものがはやっているそうだけど、ボクの家にはあさがおのカーテンが生えていますよ。

だってほら、ふつう夏の風物詩と言ったらあさがおじゃないですか、ボクは素朴な愚か者だから、通の概念ってモノに程遠くてネ…ゴーヤなんて不思議な植物に憧れはするものだけど、いやいややっぱり、庶民的なあさがおで満足することに決めたってワケですな。

で、このあさがおのカーテンがボクの夏の必須アイテムその3だネ、ゴーヤのように果実―味を楽しむところまでは期待できないけれど、青や赤の色鮮やかなお花を楽しむことができるだろ、そのうえゴーヤと一緒で、支柱を何本かたてておけば立派なカーテンになって日よけの効果バツグンなんだな、それにこのあさがおは大変優秀でね、わざわざ種を春先にまかなくても、今咲いている花の種が自然にこぼれて越冬して、適切な時期になると勝手に生えてきてくれてね、発芽までまったく手間要らずってワケさ。


おや、むこうでボクの愛馬たちが呼んでいる、ははぁ、そろそろおやつにしようってわけだね。それならばちょうど良かった、馬たちのところに行く間に、ボクの夏の必須アイテムその4を紹介しよう。

…夏になるととかくカキ氷とか冷たいものを食べて体を冷やしたくなるけれど、ボクが気に入っているのはところてんなんですよ。

年寄りの冷や水ってやつかねェ、暑いからといってあんまりに冷たいものをかきこむとかえって底冷えしてしまってネ! 

その点、ところてんはどんなに冷やしてもカキ氷にはかないっこないけど、見た目は透き通っていて涼しげだし、酢醤油とからめて食べると、じわりじわりと体が涼しくなっていく気がするんですよ。

で、ボクとしては、おやつとして遜色はまったくないと思うよ、ところてん! 

それに、ところてんは海藻から作られているから、低カロリーで食物繊維が豊富なんですよ。この食物繊維は消化されずに腸まで届くから腹持ちもいいし、腸を元気付けてコレステロール吸収を助け、整腸効果も期待できるとされているんだな。

ようはね、ところてんをおやつとして食べると、おやつが清涼感に満腹感と、ダイエット効果にデストック効果までもたらしてくれるってことさ! ほら、ボクは自他共に認めるおでぶさんだからね、ハハっ。


…なんだい、馬たちが用意していたのはところてんじゃなくってスイカだったよ。

ところてんとスイカじゃ、謎解きもできないぐらい共通項がないねェ…残念!

うん、だけど、馬たちがちょうどいい大きさのおいしそうなスイカを採ってきてくれたようだからさっそく割ってみようかねェ。

さァて、ほら、みずみずしい赤い果肉がぎゅっとつまって、見るからにおいしそうだよ! やっぱりパスモよりスイカだねェ―っておっと、一体このボクになにを言わせるつもりだい? 

スイカを食べるときに重宝するのが手ぬぐいさ。いや、スイカを食べるときに限らず、夏の必須アイテムといったらこれ抜きでは語れないぐらいに大切なアイテムだね、この手ぬぐいは。…


いやはや、一番大切なものをすっかり忘れていたよ、いままでずっと頭にかぶっていたのにねェ! 虹の中にいる人は自分が虹の中にいることに気がつかないっていうけど、まさにそれのことだね。

ともあれ、こうして、広げて頭にかぶせて、さらに上から麦藁帽子をかぶると、直射日光はもちろん、横からの紫外線からも顔を守ってくれるし、汗をかいたときにすぐにぬぐえるからとっても便利なんですよ、ボクにとっちゃァ畑仕事や土いじりをするときの典型的な服装なんだな。

さて、この手ぬぐい、夏にどんな風に活躍するかと言えばね! 

まずはスイカを食べるときに、文字通り手や口をぬぐうので大活躍さ、もちろんスイカの色が移るから、なるべく暗い色の手ぬぐいを用意することをおすすめするよ。

せっかくのスイカだもの、口や手が汚れるのを心配してちびちびかじるよりは、豪快にがぶっと食らいついたほうが味も八割り増しって具合さね。

そして次は冷却効果。クールスカーフと同じで、この手ぬぐいを水で濡らして固く絞って首に巻くだけで、ずうっと冷たく感じられるヨ、首は動脈の通り道だからね、ここを冷やすことで体全体を冷やすことができるってわけだね。

おでこが熱く感じたときは、濡れ手ぬぐいを縦に折って、おでこに巻くといい、髪がうっとうしくて作業に集中できないときなんかはうなじの下でしばればヘアバンドにもなるんだよ。ボクはしょっちゅう手ぬぐいをヘアバンド代わりに、髪を捲し上げているんだな。


だけどなんったってこの手ぬぐいのすばらしいところは…よいこらせっと、取り出だしたるこの扇子…のよき相棒として、ボクらにおいしい幻想をプレゼントしてくれるってことだろう!? 

じゃ、馬たちにならってボクも、ちょっくらおやつにするとしよう。

さぁて、手ぬぐいのなかにつつんであるのは…おっとこれはおいしそうだ、なんて香ばしい湯気なんだろうね! こうして味付けに薬味をつけて…ふうっはふはふはふっーと、おおこれは夏ならではだね! 

え? うどんかって? この暑いのに冗談はよしておくれ、これはうどんじゃなくって、「うなどん」ですよ!


…お粗末さまでした。
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2011/08/08(月) | 創作 | トラックバック(0) | コメント(0)

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